“シーナンタナゴ”と呼ばれる、シノロデウス・ミクロレピスというタナゴ

昨年の9月に初めて輸入されてきた中国大陸産のタナゴの一種である。

ヤリタナゴやアブラボテに似た体形を持っているのだが、鱗が非常に細かく、シノロデウス Sinorhodeusという新属で記載された種類である。

珍しく雌雄が輸入され、幹之メダカやオロチプロジェクトでよく紹介させて頂く、神奈川県川崎市在住の中里良則氏が趣味で飼育されていた個体をお借りして、撮影させていただいたものである。

中里氏の経験から小型の淡水二枚貝を選んでいたのであるが、中里氏から「シジミにかなり興味がある」という話を聞いた。
その直後に、那珂川水遊園の渡辺敬晴氏から「記載論文にはタイワンシジミに産卵するという記述がある」という話をFacebookのコメントで教えていただき、早速、ヤマトシジミを選んで水槽に入れてみた。

すると、やはりシジミへの反応は良く、餌もしっかりと食べて、産卵しているようであった。

そこで、昨日、輸卵管を伸長させたメスを取り出して、腹部を押してみると、卵が出た！すぐに人工授精した卵がこれである。

24時間経過して、11個中10個がしっかりと発生を始めてくれた。久々のタナゴの人工授精であったが、何より、経験値はかなりあったので、そんなに手こずることはなかった。
発生、孵化、浮上が楽しみである。

タナゴの仲間は、非常に魅力的なのだが、環境悪化の影響を受けたタナゴ類は、在来種はカネヒラを除いて全て絶滅危惧種に記載されてしまっている。

実際は多くの人にタナゴの魅力を知っていただきたいのだが、なにせ、絶滅危惧種となると、とかく飼育することを懸念する意見が出てくる。

魚類の研究者の方々でも、このタナゴの魅力から魚類に興味を持った方が少なくないはずである。それが役職に就くと「タナゴ類は絶滅の危機に瀕している」とそこを強調してマスコミに発表するようになる。

そういった身近な生物をアンタッチャブルなものにすればするほど、生物全般への興味が一般の人から失せてしまうことにつながるように思えてならない。

もっと広い気持ちで生物を楽しむことを提案していかなければ、魚類の研究者になる中高生はいなくなってしまうように思う。

外来淡水魚に関しても、『池の水ぜんぶ抜く』というくだらない番組があり、危険生物を捕まえるために、池の水を抜いて遺棄された外来生物を大げさにクローズアップするという、まったく意義のないことをやっていたりする。

ただ、カミツキガメやアリゲーターガーに関しては、観賞魚業界の問題だったことは間違いないが、だからと言って、「アリゲーターガーが殖える可能性がある！」という話を平気でしたりする。確かに複数がいれば繁殖の可能性はゼロではないが、アリゲーターガーの生息地での環境を考えれば、そういったことを軽はずみには言わないはずである。

大阪の池の水を抜いて、カムルチーが「1万匹以上いる可能性がある」と言って、採集できたのは4〜5匹、同時に採捕された在来種は別に池に放流…、別の池の生物相のこと、過剰な数になることなど、考えていないようであった。

絶滅危惧種、外来淡水魚、この言葉の響きだけを利用するのって、そろそろ止めてもらいたいと思う。

魚類、水生生物を本気で飼育している人にとって、そういった短絡的な扱いは迷惑千万なのである。

このシノロデウス・ミクロレピスにしても中国産のタナゴのため、タイリクバラタナゴやオオタナゴのような扱いを受ける可能性があるのだが、まずは、タイリクバラタナゴとオオタナゴとは輸入された目的が異なっていることを知ってから口にしてもらいたいと思う。

いずれにしても違法なことをしている訳ではないので、大切に飼育、繁殖を楽しんでいくつもりである。