『静楽庵』訪問

 岡山県『静楽庵』を訪問させていただくのは、昨年の10月以来である。この日も、到着してしばらくすると雨が降り始め、ハウスのビニールを雨粒が叩いていた。予報は確かに雨模様ではあった。「なんか雨の時が多いですよね」と言われ、そういや前回も雨だったような…と考えさせられた。
 昨年秋は、ショベルカーなどの重機が入っており、親メダカが並ぶ業販コーナーやハウスの一棟が取り壊され、整地作業されていた。これは作業効率を考え、ハウス化や排水などの配管を埋め込む工事がされていたもので、この日にはハウス化が完了しており、この冬の保温管理などにしっかりと役立ち、大型容器がびっしりと並び、数多くのメダカ達が泳いでいた。

中央に並ぶのは約400リットルが入る容器である。それぞれにしっかりとエアレーションも施されており、どの容器の水の状態も良好である。天井も高く、床面に白いシートが張られたハウス内は明るく快適な環境であった。

 こちらは別ハウス

 主に稚魚サイズの育成と採卵がされていた。数百リットルの容器であるが、収容されているメダカの数はそれほど多くない印象であった。過密にせず、1匹に対する水量が多く、のびのびと育てられていた。

 水換え中の容器では、バケツに一時収容されていた稚魚たちが見られた。これから厳しい選別がされていくのだろうが、すでに楽しみな姿の稚魚が多数泳いでいた。

 フロートを付けた四つの部屋に仕切られたカゴが大型容器に浮かべられていた。それぞれの部屋に種親がセットされており、十分な水量の中で効率よく採卵できるように工夫がされていた。ハウスなどの飼育環境から、こうした採卵育成までの効率なども考えられ、常によりよくを考えて施設も進化させているのであった。

 おなじみである小売コーナー

 それぞれのボックスに各種のメダカがセットされており、ここを見ているだけでも楽しい。ここの容器もしっかりとエアレーションが施され、販売魚も状態よく管理されている。

 室内の器具コーナーも餌から飼育器具まで、メダカの飼育に必要な様々な器具類が並べられている。サイズや形を考えられたオリジナルの網も何種類もあり、メダカのデパートのような品揃えであった。

 メダカの方と言えば、当然ながら魅力的な系統が目白押しである。昨秋には、春に春に発表された“背ビレなし黒ラメ幹之 サファイア系”を堪能させていただいた。今回、まず見せていただいたのは、そのサファイアの新たな交配系である“白ブチラメ幹之サファイア系”

 個人的には、“サファイア”よりも好みの姿であった。白ブチラメ幹之のブチ模様が、“サファイア”の複雑に入り組んだラメと合わさり、見惚れる姿になっていた。赤が入らず、様々な青の表現が入り乱れる姿であった。4月にはリリースが開始される予定だそうだ。

“サファイア”自体も新たな姿が見られた。

 “サファイア”背ビレ有りである。背ビレがない姿で背をラメが埋め尽くしていた“サファイア”であるが、背ビレがあっても、十分に美しい青ラメを見せていた。

紅白ラメ幹之体外光

 “サファイア”の青を見た後のせいか、くっきりとした紅白が目に焼き付く姿であった。濃い朱赤とラメを両立した姿で、これも人気があるのは納得の姿である。

 さらに、新たな交配も進められていた。「まだまだ開発中で、どうなるかわかりませんけど」とされていた“鱗光”×三色ラメ幹之体外光

 F3の姿であった。まだ幼魚サイズであったが、それぞれの特徴の片鱗は見せている。これは紅白タイプで、他にも三色タイプなどもおり、どう作られていくのか、次の訪問時に見せていただくのが楽しみであった。

 他にも、“令和”シリーズや“サファイア”の交配系など、魅力的な系統が後に控えており、年6世代を進める『静楽庵』の歩みは常に進んでいるのがよくわかる。以前、お伺いした際に庵主の倉内良彰氏が「メダカのブームはまだこれから」とおっしゃっておられた。巷ではメディアなどでメダカが頻繁に取り上げられるようになり、多くの人に知られるようになっているが、「さらに広がり、ひとつの産業としてなってほしい」というのが『静楽庵』の考えである。メダカの改良速度は早く、次々と新たな呼称で発表されているが、『静楽庵』では、そのメダカの持つ形質や遺伝子が極力わかりやすくなる呼称をつけるようにされており、これからメダカを始める一般の人が混乱しないようにも気をつけておられる。わかりやすくすることで、より多くの人にメダカを受け入れてもらうことが本当のメダカブームへとつながるとお考えであった。
 メダカの品種改良にも精力的に取り組んで欲しいとされていた。三色ラメ幹之にしても、柄やラメ、体外光など、どこに注目するかは人それぞれで、なにが正解とは言えない部分がある。販売側がこれがいいと思っても、お客さんによって好みはバラバラだからである。だからこそ、自分で繁殖させて好みの姿を追ってみて欲しいとされていた。「簡単なことではないけれど、他の観賞魚ではできないことだから」と、産まれて3ヶ月もすれば産卵させることのできるメダカだからこその生活サイクルを楽しんでほしいとされていた。「メダカの品種改良を“上質な遊び”として広げたいです」と、メダカをひとつの文化にと考える『静楽庵』、今ある姿に満足せず、常にさらなる表現の進化を見据え、その歩みは常に前進している。

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