系統維持をしていきたい品種 1 松井ヒレ長青幹之
改良メダカの世界は、本当に想像以上の速さで進んできたいる。
一つ、新たな表現が完成すると、すぐに別品種との交配が進み、また新たな表現となって我々を魅了する。これは改良品種の宿命でもある。
しかし、その一方で、「古い品種」のように思われるようになり、ほとんど姿を見なくなってしまった品種もいる。
それは、メダカの世界のちょっと特殊な部分の影響もある。「同じことをやるなら、少しでも高く売れる品種を選ぶ」というヤフオク等で個人販売するために、高値がつかない「古い品種」と言われるものが切り捨てられてしまうところがある。
これは、まだまだ改良メダカの趣味性が成熟していないところもあると言える。
例えば、品評会にしても、やはり新しい表現を見せるものが評価されやすい。そうではない『金魚日本一大会』のような全ての品種が勝てるチャンスのあるような品評会が行われるようになることも必要であろう。
そういった部分を一つずつ実現するとして、
この“松井ヒレ長青幹之”は、自分が知る限り、神奈川県川崎市在住の中里良則氏がいち早く作出、固定されたものである。2014年に熊本県玉名郡長洲町の『松井養魚場』で見つけられた“松井ヒレ長”から、中里氏は、2016年春には、氏の幹之メダカと交配された“松井ヒレ長青幹之”を固定されておられた。
中里氏は、同時に青ラメ幹之との交配も進められ、ほぼ同時に“松井ヒレ長星河(青ラメ幹之)”を固定されておられた。
そのあたりの話しは、『メダカ百華第3号』で詳しく書かせていただいていた。
もちろん、中里氏だけでなく、いち早く、“松井ヒレ長”と幹之メダカを交配した作り手は全国に存在してであろう。
このオスの背ビレは伸長しており、中里氏の累代繁殖されている幹之に“ロングフィン”血統が入っていることが判る。「幹之には元々、“ロングフィン”の形質があった」と中里氏が言われている通りである。
メスに求愛するポーズは見応えがある。
この『行田淡水魚』の小暮 武氏が作られた、“松井ヒレ長幹之ロングフィンGS”は、“青蝶”の呼称で人気があるが、この“松井ヒレ長幹之ロングフィンGS”にも、中里氏の“松井ヒレ長青幹之”の血が流れている。この“松井ヒレ長青幹之”が中里氏から小暮氏に渡ってすぐに、小暮氏が小暮氏の繁殖させていた“ロングフィン幹之”に交配されたのである。
新しい姿に改良されていくのはやはり改良品種だからこそなのだが、その時に、忘れないで欲しいのは“松井ヒレ長青幹之”も“ロングフィン幹之”もその血統を維持することである。
交配した系統から先祖返り的に交配した種親の外見に似た個体が出てくるが、そこから戻していくことは至難の技で、やはり、交配に用いる系統は、それはそれで絶対に保存しておきたいのである。
「メダカを楽しむ」上で、価格の高低が最重要な訳ではない。飼育者個々が本当に自分が好きな品種を追求して楽しむ…それだって趣味なのである。
白光メダカ、シルバー光メダカ、“若草ラメ”、“小川ブラック”…本物、直系のメダカを探していたりする自分がいるのだが、それぞれ、存在することに意味があるからである。
メダカの改良は前へ進む方向とともに、保存することが両立して、初めて深さのある改良が楽しめるのである。
この“松井ヒレ長青幹之”の血筋を保存しておけば、また新たなアイデアで体外光を持った、新しい表現のメダカを誰もが作るチャンスが得られるのである。