オランダシシガシラ体形の金魚を愉しむ

 金魚を飼育する場合、最初に飼育される品種として、和金、琉金、出目金が挙げられる。その次の品種としてポピュラーな存在の金魚がオランダシシガシラである。
 オランダシシガシラは、金魚を代表する品種のひとつである。中国から日本に渡来したのは1800年より以前のことだと言われており、中国では現在の獅子頭の原型となった紅高頭という品種は、1593年には存在したとされる歴史も古い金魚の一品種なのである。

 文魚から獅子頭になる過程は、琉金の中から稀に出現するという獅子頭琉金から発生したのであろうと言う説が通説となっている。かなり大型になる品種であるが、飼い方により、変化の多い金魚でもある。そのためかなり広い範囲で同品種内でも様々な違う形態を見せる獅子頭を見ることができる。

 日本での名称であるオランダシシガシラは、輸入当時の日本では、舶来品にオランダの名が付けられていたためで、原産は中国で、オランダに由来する部分はない。中国では頭部に発達する肉瘤が、獅子の頭にたとえられて、この名が付けられたのである。中国では獅子頭と表現されたり、タイガーヘッド(虎頭)と表現されることがあり、背ビレを欠いた壽星という品種にライオンヘッドの名称が付けられることがあるため、知らなければ混同しそうであるが、オランダシシガシラの名称は非常に有名なので、中国名との違いは大きな問題にはならないだろう。

 一般に流通する中国産の獅子頭は、体長が短く、成長段階の早くから肉瘤の発達が良好なタイプである。琉金と同じく、このタイプの獅子頭は、その丸味の強い体形から、やはり冬場の低水温期にはひっくり返りやすく、大きく育て上げるのは、やや難しい面があり、多少の飼育技術を要する。しかし、本来は獅子頭は長生きな品種とも言われており、奈良大和郡山の『やまと錦魚園』の中にある金魚資料館には、長命の記録を持つオランダがホルマリン標本となって展示されている。当時の飼育技術で16年は、非常に長命だったのである。日本に180年以上前に中国から渡来したオランダシシガシラは、主に西日本や四国で飼育されていたと言われている。

 中国では、主流の丸手のタイプとともに、熊本県長洲地方で繁殖されているジャンボオランダと呼ばれるやや長手の体形をした大型になるタイプが知られているが、そのタイプも華南地方で作られており、ギネス記録は中国広州(東莞)の『東海水族有限公司』が持っている。

 オランダシシガシラは頭部の肉瘤が発達し、背ビレ基底長が長く、尾ビレは伸長する四つ尾であることを定義とすれば、その品種内のバラエティは非常に多様なのである。日本で言われるオランダシシガシラの良い魚は、伸長する各ヒレに縮みやめくれなどがなくクセのない大きなヒレであることが大切で、尾筒は太く、らんちゅうなどと同様に尾芯の立ち具合が適当で、左右に優雅に拡がる尾ビレを展開することである。丸手過ぎるよりも適度な体長があり、各ヒレとのバランスの良いものが上とされている。そういったオランダシシガシラは、先に紹介した更紗琉金の良魚を探すことより容易で、「大型になる」と敬遠されることもあるのだが、優雅でありながら迫力も楽しめるという意味でもオランダシシガシラは魅力的なのである。

 頭部の肉瘤の形状によっては、広大な中国大陸の地域地域によって違いが見られ、水泡状に肉瘤が発達するものは北京などの北方型、丹頂のようにトキンの部分が発達するタイプは華南地方産だと言われる。頭部の肉瘤に注目して、このポピュラー品種を楽しんでみるのも良いだろう。中国産の獅子頭は頭部の肉瘤は魅力的であるが、尾型の悪いものが多い。特に尾筒の部分が細いものが多く、この尾筒が細ければ、しっかりとした親骨が出来ないことから尾が弱めになってしまうのだろう。単純に中国産と日本産を比較したくはないが、獅子頭の場合は、しっかりとした尾型をした魚を選びたいところである。

 オランダシシガシラは、大型になり、池での飼育も一般的だが、明け二歳魚までは水槽飼育にも向いており、愛らしい姿で、飼育者にも良く馴れる金魚らしい金魚なのである。

 主に四国、西日本で作られていたオランダシシガシラは、長手のオランダシシガシラと呼ばれており、一般に流通するオランダシシガシラとは体形がかなり異なる。関東型の東錦も紹介したが、そのモザイク透明鱗を持たない、素赤、あるいは更紗の普通鱗性のものが日本古来、西日本型のオランダシシガシラであり、その系統は現在でも少なくはなってきているが、品評会も開催されている別物のオランダシシガシラなのである。

 ここでは一般に流通する丸味の強い、量産型のオランダシシガシラ体形の金魚の魅力と、その体色のバリエーションで付けられた品種名を含めた、オランダシシガシラ型の金魚の魅力を紹介していくことにする。

東錦(キャリコ・オランダシシガシラ) 
 オランダシシガシラに、三色出目金(キャリコ出目金)のモザイク透明鱗性の体色を合わせた「キャリコ体色を持ったオランダシシガシラ」が東錦である。昭和6年に、横浜の金魚商、加藤金蔵氏により作出された品種で、高橋鉄次郎氏によって命名された品種で、体形はオランダシシガシラで雑色斑を持つ。肉瘤が発達した個体は見事で、キャリコ体色でも赤が体の半分程度まで入っていても横見で楽しむ場合は許される範囲である。

 関東型の東錦の場合は、体色に厳しい制限があり、「頭は赤、背に浅葱、尾は蛇の目の墨」という規定が厳格で、特に尾筒回りに赤が出るものを嫌う。その体色の制限の厳しさが関東型の東錦を衰退させた理由のひとつとされているが、誰でもその金魚に合った美しさを追究していけば、より出現率の低いものを求めていくのも金魚の品評の楽しさなのである。らんちゅうなどは改良が今なお続いており、その出現率の低さを追い求めているところが人気を得ている理由なのは皮肉なところである。

桜東錦(紅白透明鱗オランダシシガシラ)
 キャリコ体色の東錦と更紗模様のオランダシシガシラの交配などで生じる紅白透明鱗を持ったオランダシシガシラ体形の品種である。桜錦が品種として日本観賞魚振興会によって紹介されて以降、同じ体色を持つ品種の多くが「桜○○」と呼ばれるようになった。桜東錦もそうした流れの中で比較的最近になって流通するようになった品種のひとつである。
 キャリコ体色の場合、黒や青の斑点を表現させるためにメラニン色素を全身に残しておかなくてはならない。また、鱗の裏側にある虹色素胞による光りを反射をさせる組織を持たない透明鱗と呼ばれる鱗に体の大部分が覆われているが、この透明鱗になると普通鱗の時と異なる体色表現となる。
 この品種も透明性が頭部に及ぶことで、眼が黒目勝ちになることから表情に可愛さが出て初心者にも高い人気を得てきている。

丹頂
 日本に昭和30年代に輸入された中国宮廷金魚のひとつである。オランダ獅子頭型の魚で、頭頂のみの肉瘤が赤く、他は純白な品種である。日本では同時期に輸入された品種の中でも、ひときわ人気が高く、数多く生産され続けている。中国名は紅頂白高頭(鶴頂紅)と呼ばれる品種である。1893年に丹頂の原型が出現したとされ、中国では1960年代になって、人気が高まり、飼育者が増えたと言われている。系統の良い魚の場合は、子孫に丹頂が出る率が高いと言われており、遺伝的にもまとまった品種である。
 日本に輸入された当初は、赤い部分のばらつきも多く、顎下に赤色が出る魚も結構いたようだが、固定率が上がり、そういった丹頂が出回ることはほとんどなくなってきている。体形は、やや丸手のオランダ獅子頭型だが、元々、初期の高頭型オランダシシガシラから派生したためか、頭部の肉瘤の発達はよくなかった。また、長期間に渡る近親交配のためか、国産個体はやや小型化、弱体化の兆しも出てきていた時期もあった。近年の国産魚は、中国産の帽子頭型の丹頂との交配により、赤い頭頂部の肉瘤の発達がよくなり、体質も改善されてきている。最近では中国産の丹頂のF1と思われる帽子頭型でまとまった国産丹頂も多く見受けられるようになった。中国からの金魚輸入が日常的になった今日、中国から輸入される丹頂も品質的にはかなり安定してきており、中国F1では国産とは言い難い面もある。それに伴い、逆に旧来型の日本産丹頂の今後には要注目である。

青文魚
 全身が青味がかった青灰色をした品種である。青文魚と書いて「せいぶんぎょ」と読む。中国で藍文魚が記録されたのは1925年のことだと言われている。
 日本には1958~1961年当時に輸入されたもので、当初は“青い金魚”として最も注目されたのがこの品種だったと言われている。今の感覚では「青」とは正直言いにくい面もあるが、確かに当歳魚を夏季に白い洗面器に上げると、光の反射具合によって青い輝きが見えることがある。品種名は「青色の文魚」という意味で、中国では藍文魚と呼ぶ。この品種の体色は、黄色色素の退化によるものと思われ、グッピーでいうブラウ、日本メダカでいう青メダカに近い変異であろう。この青色(藍色)は、中国金魚で大切にされている色合いで、素赤の品種が出来ると、琉金、出目金、蝶尾、蘭畴などどの品種でもこの色彩型は作られている。この青色(藍色)から黒色素胞の多少で、銀色、黒銀色、黒色などの微妙な色合いの違いの金魚が現れる。
 背中に入る茶斑は、黄色色素が残留している部分で、その有無は好みが分かれるところであるが、逆に全身が青色の個体を探す方が難しい面がある。当歳時の茶斑は、特にどんどん拡がる傾向がある。

茶金
 中国宮廷金魚の一つで、英名はチョコレートオランダ、中国名は紫高頭、紫獅子頭(紫獅頭)である。国によって色彩認識の違う点が面白いところである。
 茶金が中国で知られるようになったのは、1950年のことで、茶琉金は1925年に知られるようになったという記録がある。紫魚(ツウユイ)として格調高い色合いと表現される。日本には1958年に中国から導入されたと言われている。
 茶金の卵は、ごく薄い黄色で、他品種の卵より見えにくい。孵化直後の稚魚は薄灰色で、他の品種とはかなり違った印象を受ける。初期の時期の稚魚はなかなか扱いにくい傾向があるが、一ヶ月ほど経過すると丈夫さは変わらなくなる。これはメラニン(黒色素胞)が、ごく僅かしかないためと思われる。アルビノとの違いは、メラニンの密度の違いであろう。グッピーにおけるゴールデンとアルビノの違いと同等のものと考えらる。
 昭和36年以降、国産化された茶金は、旧来型が主流でやや長めの琉金型(文魚型)で、頭の発育は加齢とともにそれなりに上がってくる系統であった。近年、中国から輸入されてくる系統は、紫獅子頭といわれる系統で、その系統は頭部の肉瘤の発達が立派である。ただ、尾型やや貧弱な面がある。茶金に関しては中国系との交雑はまだあまりなされていないようであるが、ここ1~2年は、丹頂やオランダシシガシラでも頭部の肉瘤の形状から中国から輸入されたF1が流通するようになってきている。
 毎年10月に愛知県弥富で行われる金魚日本一大会では、この茶金の出品数が減ってきている。しっかりとした魚は本当に魅力があるのだが、茶色という色合いが一般に受けないためか、中国の輸入魚に頼っている現状は改善されて欲しいところである。

ブラック・オランダ
 ブラックオランダは80年代から輸入されるようになった全身が真っ黒なオランダ獅子頭体形のカラーバリエーションで、日本で流通している本品種名の個体は、ほとんどが輸入魚である。ブラックらんちゅうと並んで人気は高く、特に黒さが強い個体は見事である。品種名は広く知られるものになっているが、未だに固定しているという訳ではないようで、1956年に鉄色高頭が知られるようになり、“ブラック”とは言われるものの、黒出目金のような漆黒のものがまとまって輸入されることは少ない。

赤白黒オランダ
 オランダ獅子頭体形で、黒、赤(橙色)、白の三色を発色させる比較的、最近になってまとまった輸入が見られるようになったカラーバラエティである。改良目的は、この色合いにしようとしたのではなく、黒白オランダシシガシラを作るための途中段階というか、赤(橙色)が多く出現してしまった類からかもしれない。
 この色合いが’90年代に輸入されていた瑪瑙(メノウ)オランダという品種に由来するものである可能性が高い。瑪瑙オランダは、模様構成が高頭青文に似ているが、それよりももっと淡く、薄灰色、薄紫に近い地色に茶色の斑がある。日本にもまとまった輸入が見られたのだが、人気が出なかったため、現在では輸入されることはほとんどなくなった。一旦、絶えてしまうと作り出すには時間がかかるため、この赤白黒オランダに混ざって輸入される個体の中から選別して血統を残すようにしたい。

虎オランダ
 虎オランダと呼ばれる品種は、オレンジ色と黒色の染め分けが美しい品種である。中国名は紅黒獅子頭。残念ながら、この色彩は永続的なものではなく、羽衣(はごろも)と同様、いずれは黒い部分がなくなり、全身がオレンジ色(緋色)になる系統である。ブラックオランダを飼育している場合も、当初はかなり黒い個体であっても、徐々に腹部から色が抜け、虎模様になることもある。

羽衣

花房オランダ

浜錦

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