『伊香保フィッシュファーム』訪問

　JR上越線の渋川駅から車で20分ほどだが、道はずっと登りである。カップ麺の容器がパンパンに脹れるような標高にあるのが『伊香保フィッシュファーム』である。周辺にはイチゴのハウスも並ぶが、同じようなハウスながら、中身はメダカの舟やプールが並ぶ養魚場である。

　育成用の大型プールが並ぶハウスが3棟、他にたたき池やプラ舟が並ぶハウスが2棟、種親採卵用ハウス1棟といった規模である。こちらを管理される責任者の瀧井忠仁氏は、浜松の（株）清水金魚で16年の勤務経験をお持ちで、魚の管理に関して長い実践経験をお持ちである。
　お伺いした水曜日は、定休日になるのだが、瀧井さんは朝からファームに出られている。「休みだから一心不乱に魚いじりに集中できるんです」と、ご自分のペースで好きなようにできる自由？を満喫されていた。

　こちらは種親の入ったプラ舟が並ぶ採卵用のハウス。「セットした次の日には卵をボロボロ産んでるようなやつが好きですね」と満足げに産卵床を見つめる瀧井さんであった。取り出された産卵床は、小型容器に入れられ、親槽の上に置かれる。これは卵を冷やさないようにする配慮で、卵が早めにフ化するように、床置きなど下段ではなく、温度のとれる上段に置くようにするとのことであった。フ化した稚魚は小型容器からプラ舟へと徐々に容器のサイズをあげていく。ブラインシュリンプを与えながら、ある程度のサイズになったら大型プールへと放たれる。やはり幼魚の育成には水量は多ければ多いほどよいことを実感されている。
　『伊香保フィッシュファーム』では対面での販売は行っておらず、ネットショップのBASEでの販売やヤフーオークションへの出品をされている。「買う側の立場になることを考えますね」と、「自分が購入して、こういうメダカが届いたらどう思うか？」と気にかけているそうだ。やはり健康でしっかりとしたメダカが届くことが当然とお考えで、届いた先で体調を崩して欲しくないことから、ファームの飼育水を調整したりせず、なるべくフラットな状態で出すことを心掛けている。「ネットでの購入は画像での判断になる」ことも意識されており、そのメダカのいいところが表現できるようにされている。瀧井さんが出品用の撮影をしているところを覗いたことがあるが、パッパパッパと素早くこなされていた。それでも荒い画像ではなく、「欲しい」と思わせる画像であったのが印象的であった。「写真を人に任せたこともありますけど、鉛筆みたいな仕上がりで」と、魅力の伝わらない画像が我慢ならない職人気質な方でもある。

　最近の人気品種をお聞きすると、まず“黄桜”、そして“オーロラ黄ラメ”をあげられた。

　“黄桜”。二色幹之や黄幹之を元にし、“夜桜”や“女雛”、そして“鱗光”の作出過程にも使われた品種。画像はフルサイズの親個体のため、色味が濃くなっているが、若い個体では黄と白の配色が涼しげな品種である。

　“オーロラ黄ラメ”。黒ラメ幹之に黄色色素を持たせるために黄幹之の白タイプを交配した、岡山県の『静楽庵』で作出された系統。独特な黄色斑を持ち、その出現の仕方や色合いはバラエティに富み、本品種を元に多くのバラエティが知られる。瀧井さんはグラデーションがかる表現がお好きで、それが『伊香保フィッシュファーム』のオーロラ黄ラメカラーにもなっている。体外光やヒレ長などのバリエーションも作られている。

　“ラズリー”。『静楽庵』作出の“背ビレなし琥珀ラメ幹之”からごくわずかに出現する青いラメを持つ系統で、『伊香保フィッシュファーム』と群馬県太田の『上州めだか』で累代されている。数を得ることがまだ難しいが、瀧井さんは右の頭が赤茶の発色を見せる個体に着目されていた。

　“煌松井ヒレ長”の光体形。光体形は、どうしても骨曲がりが出るなど、商材としてはロスが多い系統になるのだが、「好きなんで商売度外視でやってます」と瀧井さん。遊び心も忘れずに楽しまれているのが伝わってきた。

　「メダカは季節性があったり、交配しての品種改良など、多くの魅力を持っている。きめ細かく取り組めるので、女性にもお薦めできる魚ですね」と、多くの人に楽しんでほしいとされていた。気温も安定する時期に入ってきており、もうひと月もすると稚魚たちは安心サイズになる。これからどんどんと『伊香保のメダカ』がリリースされてくるのが楽しみである。