『北辻メダカ』訪問
晴れた日には、昼前には余裕で気温30℃を超えるこの時期、冬場の保温などで活躍したハウスや温室内は相当な温度になる。そこで送風機をつけたり、サイドを開けて風を通したり、寒冷紗を設置したりと、それぞれの暑さ対策をされる。
こちらは『北辻メダカ』山本さんの温室
プランターや水槽が両サイドを埋め尽くし、中央の通路はギリギリすれ違えるという広さであるのだが、中は思ったよりも暑くない。この季節ではこうした温室内で撮影し続けるのは危険とも言えるのだが、こちらの温室では中に籠もっていられた。元々の温室を建て増しする形にされたそうで、天井までの高さをとり、扇風機を後ろと正面に設置することで風通しも工夫されていた。
水槽やプランターも小型サイズで、赤玉土が5cmほど敷き詰められており、小型のフィルターでエアーを回しているが、水量としては決して多くない。さらに普段は本業のある山本さん、なるべくギリギリまで引っ張る飼育をされており、基本は足し水中心で、赤玉土の隙間がなくなってきたら土だけを洗い、水はなるべくそのまま使われるそうだ。「外のプラ舟は6年水換えしてないです」と笑われていたが、なるべく過保護にせず、強いメダカにしたいという想いをお持ちである。まだ経験が浅い頃、購入してきたりオークションで落札したメダカが、すぐに調子を崩してしまった経験があり、「そうした経験はメダカを飼う人に採ってショックでしょうから」と、あえて過酷な環境で育て、買われていった先のよい環境で元気に育ってくれればとの想いであった。ご自宅での販売はされていないが、道の駅には週に60袋を年間を通して出荷されており、人気は上々のようである。
温室の下段には、採卵され、フ化を待つ小型タッパーが並ぶ。卵を傷つけないように、毛筆を使って親の体から卵を回収される。冬季には採卵されないそうで、暖かい内に採れるだけ採るスタイルである。カビ防止用にメチレンブルーを使われるが、その濃さには少々驚いた。しかし、山本さんなりに試された結果の濃さだそうで、これぐらいという独自の目安を決められていた。
屋外に並ぶプラ舟。奥に見えるのはスプリンクラーで、これを少しずつ移動させることで水を足されている。ワイルドな飼い方であった。
『北辻メダカ』といえば、“北辻ヒレロング”である。
2016年から固定化を進めて名付けられたオリジナル品種で、その特徴はしりビレと背ビレの軟条数が多く、尾柄部が幅広いことである。
独特な体形はある種の熱帯性卵生メダカを思わせ、可愛らしい印象を受けた。普通体形から光体形、ヒレ長など様々なバリエーションを作られている。
こちらは“イエローラメ”と呼ばれている系統。普通体形のシルバーラメと青ラメ幹之の交配で4年前から進めている。背中の真ん中に青いラメを一直線に入れ、その周りに金色のラメが入るようにと考え、だいぶ理想に近づいてきていた。
三色ラメ幹之松井ヒレ長。こちらも3年ほど進めている系統で、透明感のある三色ラメに白ブチの松井ヒレ長を交配させた。独特な種親選びをされ、冬に種親を決めるという。夏場に赤が乗っていなくても、寒さがきてから赤が乗る個体を親にされるそうだ。
ご自分なりの飼育法を確立され、一般種からオリジナルまで幅広いメダカを作り上げる山本さん。出荷のペースが早いために、次々と魚が入れ替わってしまうので、タイミングによっては若魚ばかりということもあるそうだが、しっかりと育てられたメダカ達を次に見せていただくのも楽しみであった。