『ブラックメダカ』訪問
普段、メダカのブリーダーや専門店にお邪魔することが多く、そこではしっかりと作り込まれた人気品種たちや独自の交配系など最新品種を見せていただいており、さすが!というメダカたちに溢れている。しかし、個人の趣味として楽しまれている方でも、並々ならぬ熱意を持って取り組まれているのが感じられるのである。
今回お伺いした『ブラックメダカ』さんも、そうした愛好家のお一人である。「柄物だったらブラックさん」という具合に、他の愛好家の方やお店からも名前をお聞きしており、SNSにあげられている三色ラメを中心とする画像にも目を留めさせられていた。
飼育場はお庭に面したウッドデッキで、20数面のプラ舟が敷き詰められていた。「三色ラメが最も好きです」とされ、このプラ舟の8割は三色ラメで使用されていた。他の2割で飼育しているのは紅白ラメとサファイア系だけという3品種に絞られており、あくまで三色ラメを中心として飼育を楽しまれていた。
種親としてメインに活躍しているお気に入りのペア
『ブラックメダカ』さんの三色ラメには、複数の系統が導入されており、すでにオリジナルとも言える血統に作られている。3年ほど前、スタートした際の三色ラメは、今ではハネとも言えるような墨もほとんどなく、赤というよりは黄色ほどにしか色づいていない個体だったそうだ。当時はまだグレードの高い三色が少なく、稀に出ても非常に高価だったことから、ご自分で作り上げる選択をされた。そして途中途中で「朱を入れたいから“あけぼの”を」という具合にいくつもの特徴ある系統を交配されていったそうだ。
「とにかく数を採るしかない」と、卵一粒を大切に回収しながら取り組まれたそうだ。最初は1000匹ほど採ったものの、気に入る個体は1匹しかおらず、数採りを意識されるようになり、その後は冬前ギリギリまで採卵し、通算8000ほどを採るようになっている。それでも満足いく個体はごく少ないが、「難しいからこそやりがいがある」と取り組まれている。
強く意識されているのは墨や柄の表現である。ラメの表現はその後からと考えられている。採卵に使われる親は絞りに絞って、最初のペアなどは一昨年の個体で、2シーズン産卵に活躍している。また、ご自分の好みでない個体もあえてセットすることもある。「その子が99ダメでも1匹いいのが出れば」と、実験的な取り組みもされる。持ち前の探求心によるものだろう。コツコツと進めることを苦にされず、1年目は水質や水量などの限界を知るために様々な条件を試されたそうで、2年目ではそれぞれの品種の本物をしっかりと見ることに費やされたという。針子から稚魚、成魚など、その時々での環境の適応なども試され、「ここまでしたらダメ」というご自分なりの飼育状況を把握され、こうした経験の蓄積から殺してしまうことをなくそうとされた。飼育環境も、なるべく作業効率をよくしたいことから、なにも入れないプラ舟という60リットル槽でのシンプルな管理に行き着いている。
限られた飼育容器でやりくりをするために、選別も早めに行うそうだが、昨年などは生まれてから1週間ほどで頭部に赤が出始めたことこあり、針子から稚魚手前で選別をされたそうだ。「近道はないですね、基本に忠実にやることをこなします」と、妥協しない選別や稚魚のサイズ分けなどをしっかりすることが大切とされていた。
「色抜けしない特上の三色作り」を目標にされているが、少しは他の品種も楽しまれる。
こちらはサファイア系の累代個体。やや黄色系の発色を見せており、多色ラメの表現を目標とされている系統
ご自身の三色ラメにサファイア系を交配した系統。まだ取り組みだしたばかりのF1なので、方向性は決まっていないが、赤みを帯びたラメが見られ、この先が楽しみであった。
「メダカはたくさんの品種があるので惹かれはするんですけど、結局は飽きて三色へ戻ってしまい」と笑われていた。表現を固めることが難しい柄物の三色ではあるが、その難しさも含めて楽しまれているのがよくわかる「商売でない」からこその追求を感じられる方であった。