『も屋』訪問
初訪問させていただいたのは、香川県高松市にある『も屋』である。当初は週末営業の形をとっていたが、夏からは平日もオープンし、フルタイムのメダカ専門店として活動されている。大通りから少し入った閑静な住宅街の中、広々とした駐車スペースからビニールハウスや各種容器がずらりと並んだ光景が目に飛び込んでくる。
そこはご自宅周りをすべてメダカ容器に囲まれたメダカ御殿といった様相である。代表の宮本正人さんが、「どんどんと容器が増えていってしまって、とうとう駐車場にまで置き始めちゃいまして」と、メダカ関係者なら誰でも経験している容器が増える問題であるが、「これ以上置くと駐車スペースがなくなってしまうんですよね」と苦笑いされていた。
様々なサイズの容器がご自宅の建物を取り囲むように配置されており、実際の数としては「500か600か、もう数えてないです」とのことであったが、この数の容器を宮本さんご夫妻と娘さんの計3名で管理されているというから、さらに驚かされた。どの容器もしっかりと管理されたクリアな水になっており、メダカ達も元気に泳いでいたのが印象的であった。
昨年までは短管を組まれた屋外スペースであった所をビニールハウスへと切り替えたそうである。
ハウス内には、大小さまざまな容器がびっしりと並べられていた。温度管理などハウスの利点を考えて設置されたが、なにぶん今までに使ったことのない状況で、特に夏場は遮光の調整など苦労されたそうだ。秋口になってやっと安定してきたそうで、クリアーのパンケースには数多くの稚魚が収容されていた。1cm弱ほどのサイズの幼魚もおり、これくらいのサイズになるまでこの容器で育成される。明るい環境は、宮本さんの得意とされる体外光系の育成に向いていることもある。決して水量が多いとは言えない容器だが、それだけしっかりと観察され、適切な水換えや餌やりなどの飼育が行われていることは、育てられた魚たちが物語っていた。
『も屋』と言えば、体外光である。“三色RT”と呼ばれている三色ラメ体外光には強い想いをもって取り組まれている。熱帯魚の飼育経験もあり、元々はシロメダカやアオメダカといった時代にメダカは飼っておられたそうだが、「飽きっぽい性格なんです」ということで、ほどなく止められてしまったそうだ。しかし、その後、品種も増えていき、三色など柄物のメダカも登場。当初に比べると格段に美しくなった楊貴妃に惹かれ、メダカ飼育を再開、多くの品種に取り組まれるうちに、柄物メダカ作りに没頭されるようになった。「いい親から子供を採っても、親にかなわない。なんで?と悩みました」と、難しさを実感された。それならばと、質は数からということでたくさん殖やすことから始め、自分の思う表現に近づけることをされたそうだ。飽きっぽい性格とおっしゃっていたが、ひとたびはまると、強烈なこだわりを発揮される宮本さんであった。「難しいからこそ、いい感じのができた時はうれしくなります」とおっしゃるが、満足はされない。奥さんなどからも「いい出来じゃないの」と言われても、「いや、まだまだ」と妥協はしない。おそらく「これで完成!」とは一生いかないかもしれないと感じておられるだろう。よいのが出来ても、これより墨濃く、赤濃く、光強くといった具合に、よりよいものを作り出そうという意識が強い宮本さん、その終わりのない柄物作りに夢中なのであった。
宮本さんの三色RT
朱が濃く、体外光もしっかりと入っているタイプ
まるでモザイクのような具合に朱や墨が全身に散らばるタイプ
個人的に気に入ったのは、朱は少ないが青みを帯びた光沢を見せる墨の濃いタイプ
そして、1匹だけいたこの個体にも惹かれた。頭の朱を割って青みのある体外光がビシッと入った姿
こうした具合に特徴を押さえながら、複数のタイプを分けて管理されていた。「綺麗なのが出来る確率は低い三色柄なので、採卵できる間はずっと採ってます」と数採りを強く意識されている。出来上がりの姿を見せていただき目を見張っていたのだが、ここに至るまでには相当な選別をされてきていることは想像に難くない。難しいからこそ、終わりのない楽しみだとも言える。
こんなのもいますよと見せていただいた紅白光
澄んだ紅白の体にバランスのよい光体形とヒレに仕上げられていた。三色体外光から紅白にして、ヒレを大きくするためにヒレ長をかけたりしているそうで、なにげにしっかりと手間暇をかけて作られた魚である。こうした所からも宮本さんのこだわり具合が強く感じられた。
最近では、訪れるお客さんの3割ほどは初心者だそうで、メダカ人口は増え続けているのを実感されている。お邪魔している間にもまだ経験の浅いお客さんが掛け合わせの質問をされ、丁寧に品種や交配したらどうなるかなど説明する宮本さんの姿があった。常連にはベテランの愛好家も多く集うそうだが、こうした初心者の方でも安心して訪れることができるメダカ専門店の『も屋』であった。