”井川系アルビノ“井川重信氏宅訪問
「三河の地でメダカをこよなく愛する老人」というキャッチフレーズをお持ちの井川重信さん、メダカ飼育歴20年を超えるベテラン愛好家である。『岡崎葵メダカ』の天野さんからご紹介いただき、天野さんのメダカの撮影をした後にお邪魔させていただいた。『葵メダカ』から井川さんの運転でご自宅へ向かった。「取材? 新幹線の駅まで送る役目じゃないの?」、「まさか!そんなわけないじゃないですか、メダカ見せてください!」といった具合に1時間ほどの車中は冗談を交えながらいろいろなお話を聞きながらの楽しい時間であった。
駐車スペースの周りはメダカの容器でぐるりと囲まれていた。ご自宅横や裏手にも容器は並んでおり、家をメダカの容器が囲んでいる形で、総容器数は100を超える。
各容器に日付などが書かれたメモが付けられている。これは水換えをした日付や入れた雌雄などを記録されているもので、こうした情報を見つつ、水の状態などを確認して水換えや手入れを行っておられる。
昔ながらの水瓶も使っておられた。以前は、すべてこの水瓶で飼育をされていたそうだが、水を入れていない状態でも重いため、水換えがしやすいように現在の発泡容器に切り替えられた。
井川さんは、まだ数も少なく、飼育や繁殖が難しいとされていたアルビノに取り組まれ、10年以上累代を続け、2012年には“井川系楊貴妃アルビノ”と呼ばれるほどの姿に仕立て上げられた。とにかく濃い体色にすることを心掛け、アルビノだけを累代するだけでなく、通常の楊貴妃と掛け戻すこともしたりと、工夫されながら作り上げてこられたのである。そして、現在、力を入れられておられるのが“アルビノ24アンナ”である。
頬が赤く透ける透明鱗表現のタイプで、アルビノ楊貴妃にアルビノ天女の舞を交配し、そのF1オスにまたアルビノ楊貴妃を交配して進められている。“24”は管理日付、“アンナ”は奥様の洗礼名である。メダカ飼育を奥様とお二人で楽しまれておられるのが、滞在時にも強く感じられた。
頬が透けない通常のタイプである“アルビノ24”。
交配の結果出現した、松井ヒレ長表現も固めておられた。
他にも光体形や紅白表現を狙うアルビノ楊貴妃も維持されており、今回のメダカ百華11号でガッツリと紹介させていただいた。
「難しいと言われるから、アルビノをしっかりとやる人は少ない」と感じておられたが、それだからこそアルビノに興味を持つ方には積極的にアドバイスもされるそうだ。親の管理から、稚魚への餌やり、餌の量や水換えなど、今までに培ってこられた経験を後進の人に伝えておられる。研究熱心で、交配記録などを細かく書き留めておられた。
使用した雌雄、F1、F2、F3でどうなるか?や、目標とされる姿など細かく記されている。遺伝の大切さも心得ておられ、F1で両親それぞれの姿でF2でバラバラの表現が出ることや、アルビノがいきなりF1で出てこないなど、遺伝の基本はメダカを飼う上でしっかりと理解しておかないといけないとされる。そうしたことも踏まえ、新しい品種だけでなく、昔ながらの品種を守り続けることも大切だとおっしゃる。「最先端を追い求める人もいるけど、自分みたいに昔ながらを守る零細企業も必要でしょう」と微笑んでおられた。むやみやたらな交配をするのではなく、純系を維持することの難しさも経験されての想いである。「今でも周りのメダカ仲間からいろいろ教えてもらってます」と、メダカ仲間とのつながりも大切にされており、まだまだご自身のメダカも磨き続けながら、メダカ飼育を楽しまれる井川さんである。