メダカを見つめるということ 1

今回のブログ記事は、ちょっと辛辣なことを書こうかと思う。
「メダカを見つめる」、それはメダカ愛好家なら誰でも日々、やっていることかと思う。

入手したメダカを繁殖させて、育った幼魚の選別をする時も当然、しっかりと観察して良い個体を次期種親として選ぶことも「メダカを見つめる」ことである。

これは、最近、一斉リリースされた、垂水政治氏の新たな系統、“エメラルドフィン”である。
今年になって、垂水氏作のメダカが、“鱗光”、“ブロンズ”、“王妃”、“グリーン”と垂水氏の“鱗血統”と“垂水ロングフィン”の血統が活かされた系統が続々とリリースされ、それらが、リリース後からヤフオクを賑わせたのは皆さんご存知のことだろう。

その“グリーン”血統にさらに“垂水ロングフィン”を交配して進められているのが“エメラルドフィン”である。

“月華”である。群馬県太田市にある『上州めだか』の岡田卓也氏が系統として仕上げたメダカである。

“王華”である。こちらも『上州めだか』の岡田卓也氏作の系統である。
“月華”、“王華”は三色ラメ×三色ラメ体外光の交配から進められたもので、表現としては、“月華”は三色ラメ、“王華”は紅白ラメである。

ここで、「メダカを見つめる」という本題に戻れば、垂水氏にしても、岡田氏にしても、数ある魚の中から長所、伸ばしたいところのある魚を種親として累代繁殖をされ、他の人では作れない系統として進めてこられたのである。

ここ1〜2年、メダカの飼育者は更に右肩上がりに増えている。それは、改良メダカが時代に合った趣味性を持っているからだと感じている。

昭和の時代は、趣味は道楽と言われ、趣味家がお金に糸目はつけずに楽しんでいた時代であった。それが令和の時代になり、「趣味と実益」という部分が強くなっていた。それは全く悪いことではなく、真剣に作ったものが評価されることは大きなモチベーションにもなる。趣味と言えども、湯水のようにお金を使う時代ではなくなり、経費や新たなメダカの購入資金をその趣味から得ることが出来れば、より趣味を楽しめるようになるのも確かである。

現在、メダカ人気のバロメーターになっているものの一つがヤフーオークションである。これは出品して、入札があれば、売買が成立するというもので、私自身もヤフオクでメダカを入手することは多く、それを12年ほど続けている。

例えば、らんちゅうという金魚の世界で言えば、以前は良い魚を作った人が売りに出すというのではなく、欲しいと思った人が「譲ってください」という世界であった。良い魚を作る人には自然に購入したい人が集ったのである。

それは、昔も今も、変わらないで欲しいところなのだが、時代の流れというか、ヤフオクでメダカを売りたいという人の中に、画像の彩度を高めて、有りえない赤さ、青さ、派手さにして出品したり、卵や稚魚の販売が盛んになったり、あげくは、購入した魚を即座に転売するなど、やりたい放題の人も参入してきている。卵や稚魚の販売が悪いという訳ではなく、本当に種親として見せた画像の卵や稚魚なのか?判らない人が参入してきているのが目につくのである。種親として紹介されていた魚が、自分の写真だったということを何度も経験したりもしている。そこまでになってくると、詐欺になってしまうのだが、そういった出品者が増えているのは間違いない。

さて、「何が言いたいのか?」と言えば、「魚の魅力、長所を見て各々のメダカを購入していますか?それとも、ハウスネームを購入していますか?」と尋ねたくなるのが2020年の動向だと感じていたのである。

例えば垂水氏の“鱗光”、“ブロンズ”、“王妃”、“グリーン”も魚の持つ魅力、可能性を感じて「飼ってみたい!」と思ったのか?「垂水氏のメダカなら殖やせば売れる!」と思って、魚の持つ長所、本質を見ずに、「手っ取り早くお金儲けが出来そうだ!?」とハウスネームを入手したのか?と思ってしまうのである。

せっかく「改良メダカ」という質を向上させるところに面白さがある魚種を飼うなら、「より良い魚を作ろう!」とか、「作出者の人から褒められるような個体を作りたい」とか王道の楽しみ方があることは知っていて頂きたい。

そして、作出者が時間をかけて作ってきた個体を見て、ああだのこうだの言う人もいるが、そういう人にはただ一言、「じゃあ、あなたが作ってみれば?」と言いたくなるのである。欲しくなければ、入手しなければいいだけで、実物を見ずに色々言う人って、「それを言うことに何の意味があるのか?」と問いたくなったりする。

改良品種で欠点を言えばどんなメダカでも欠点はある。そこではなく、そのメダカの長所、可能性を感じるものを見て、感じようとすれば、どんなメダカでも見ていて楽しくなるのである。

「誰よりも早く売ればお金になりそうだ!」と思えば、卵を売るのが手っ取り早いし、もっと酷い例では、届いたメダカをそのまま転売する方法もちらほら見られる。コロナ騒動当時のマスクの転売と一緒である。やっていることは違法ではないが、そこには良心というものはまったくないのだろう。

“月華”、“王華”もヤフオクに岡田氏本人が出品された時は予想以上の落札価格になったのだが、その金額が出た後、作出者の岡田氏は「より“月華”、“王華”らしい個体を作る」ために努力、苦労をしている姿を見てきた。

しかし、ヤフオク上では、「“月華”、“王華”」のハウスネームを使った出品者が増え、中には、「どこが“月華”、“王華”なのだろう?」と思ってしまう出品物もよく見かけるようになってしまった。

せっかくメダカを飼い始め、「良い魚が出来たら、ヤフオクに出品して世間の評価を知りたい」という目標を持つことはお勧めする。しかし、何でもかんでも、人気のあるハウスネームを使って、質の向上など二の次で売りに走るという出品者になることは目先のお金は得られるかもしれないが、多くの人から評価されないことだということを少しは意識してもらいたいと思う。

先日、取材させて頂いた、埼玉県深谷市にお住まいの矢野陽三氏の作る“ホログラム”というハウスネームが付けられたメダカである。

その“ホログラム”を用いて、さらに交配を進められた“ブラックメタル”というハウスネーム(矢野さんの場合は管理名的なもの)を付けられた系統である。

そして、こちらも別の交配で側面のグアニンに注目されて進めている“黒滲み(くろにじみ)”である。
矢野さんの作られたメダカはなかなか入手できない。それは矢野さんが新たなメダカ作りを楽しんでおられるからで、出来たメダカを販売することより、「更に先に進めたい!」という気持ちですぐに次の交配に向かわれるからである。今の時代なら“ホログラム”は多くの人に「飼ってみたい!」と思われる魅力を持っているメダカだと思う。

先に書いたが、「譲って欲しい!」と思えるメダカをじっくりと作り込んでいるメダカ愛好家も少なからずいてくれるのはホッとするところである。

こちらは岡山県井原市の『星田めだか』、妹尾和明氏の作られた、“乙姫”の松井ヒレ長化された系統である。ハウスネームは“竜章鳳姿(りゅうしょうほうし)”で、「竜章鳳姿」とは、立派で威厳のある容姿のことをいう意味を持ち、竜のように勇ましく、鳳凰のように気品がある立派な姿ということが言葉の由来になっている。良いハウスネームだと個人的には感じたものである。

こちらは静岡県浜松市の清水大輔氏がクリアブラウンから出てきた色変わりな個体を選抜交配して進めているハウスネーム「美翠」と書いて「ジェイド」と読む系統である。

この魚は、愛知県知多市にお住いの『南巽めだか』さんが好きなタイプとしてずっと累代繁殖されている黒黄のメダカである。ハウスネームはない。

同じ『南巽めだか』さんが、以前から累代で作っておられる”黄金”とよんでいるメダカに、松井ヒレ長”華蓮”を交配して進めている系統である。朱赤色より黄色系統に注目されてこの系統を勧めておられる。ハウスネームは”美龍”と書いて「ヒドラ」と読む。

こちらも『南巽めだか』さんが始められた異品種交配のF1である。”鱗光”から出た紅白体色のメスに、『めだかのビーンズ』血統の”紅玉”のオスを交配されたもので、当然、ハウスネームはまだない。ここから続けられるF2、F3が楽しみである。

こちらは、『上州めだか』の岡田氏が、”鱗光”のオスに、”王華”のメスを交配されたF1で、体色はやや緑色を帯びており、体外光、ラメの出現具合で、大別して4タイプに分けられたものである。この魚から岡田さんがどのタイプを伸ばしていくのか?楽しみである。

改良メダカの世界では、ハウスネームをつけることに制限やルールなどなく、誰でも、付けようと思えば自由に名前を付けられるのが現状である。全く思いもしなかった色柄のメダカが出てきたことで、「オリジナルタイプ、新品種」として、F1で独りよがりのハウスネームを付けている人も見られるが、そういったハウスネームは多くの人に受け入れられず、自然消滅してしまうことがほとんどである。

そういったハウスネームを付ける人は、手柄を性急に求めたい人に多く、その中には「高く売れないかな?」という考え方も見え隠れする。

ハウスネームは自分で付けたものではなく、他の人から「ハウスネームを付ければ?」と言われたり、他の人が命名したものが後世に残るものになってきている傾向が強く、ハウスネームは他の人から評価されるメダカに付けられるべきだと感じる。

メダカの品種というカテゴリーはまだまだ固定率が低いものが多く、他の生物の品種レベルとは異なっている。しかし、毎年、10点ほどは、多くの人にも認められる系統が誕生し続けてきたのも事実である。

「自分もオリジナルのメダカを作りたい!」と思っている人も多いだろう。その方法として、何でもかんでも交配してしまう人も多いのだが、せっかくオリジナルのメダカを作ろうというなら、「まず、どんなメダカを作りたいか?」をイメージすることが大切である。
例えば、「”紅薊”に似合う体外光を乗せたい!」、「全身黒で、尾ビレ、背ビレ、胸ビレなどヒレだけ朱赤にしたい」、「虎をイメージするような黒と黄色の斑紋を持つメダカを作りたい!」など、まず、自分が作りたいと思う「想像のメダカを机上でイメージできるか?」が作り手としてのクリエイティブさの有無が判断できる部分である。

現状の日本のメダカ愛好家の中で、新たな表現を作れる作り手はごく少数であると言える。しかし、まだまだ多くのタレントは日本各地に隠れているとも思う。

「メダカを見つめる」ことは、実際のメダカを見るだけではなく、自分の作りたいイメージを考えることだって「メダカを見つめる」ことなのである。

是非、2021年に向かって、個々のポテンシャルを個々で引き出してみてもらいたい!

6 thoughts on “メダカを見つめるということ 1

  1. クジライ より:

    こんにちわ!

    今回記事、とっても共感しました(T . T)
    メダカが欲しい病もひと段落しましたんで、作者様から直接メダカを購入させて頂き、新たなメダカの飼育をしようと日々奮闘しております。

    先日のインスタにも上げて居られましたが、ヒレに紅をのせる個体に、すごく興味を感じで早速準備だけしています!どうなるか?分かりませんがこれからやって行こう思っています。

    1. 株式会社ピーシーズ より:

      机上や頭の中でだけイメージするって楽しいです。それを実現するために、ベースとなるメダカに一つずつ加えていく…長い道のりになるかもしれませんが、いつも「面白がって」メダカに接していればその目標に近づいていくと思います。

  2. kazudonman より:

    自分は完全なるオリジナルをと思って飼育し楽しんでいますが、有名な方の名前で購入した卵と表記し購入すれば全て全然違う個体になった何度も経験してます。
    親と同じは個低率にも依るかと思いますが、それなりの個低率でないと納得がいかないのが自分の考えです。
    今回こちらを拝見して強い信念を持とうと思いました。地道に頑張ります。

    1. 株式会社ピーシーズ より:

      改良メダカ作りは趣味ですから!「面白そうだ!楽しそうだ!」から始められて、飼育の難しさを経験を積みながらハードルを越え、その次に来るのが、オリジナルの系統をイメージして作るっていう終点のない、ちょっと高いハードルを目の前にして、一息ついて、越えていかれることを待っています。

  3. 当て字 より:

    ハウスネームのキラキラ化が最近気になります。。。。

    1. 株式会社ピーシーズ より:

      その部分からはメダカを飼う人の世代が若くなっていることを感じていました。どんな名前でも最低限、自分で交配して作った系統に命名して欲しいとは思っています。

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