透明鱗三色の職人 訪問

二年振りにお邪魔したのは、透明鱗三色“紅華錦”の作り手である鈴木健二氏の飼育場である。

透明鱗三色を殖やしていると琥珀色のタイプも出てくるのであるが、朱色にひたすらこだわり、累代されること12年、見応えある姿の透明鱗三色に仕上げられておられる。
その取り組み方は、まさに職人と呼べるこだわりである。最近ではラメや体外光といった新しい品種が数多く紹介されており、鈴木さんも興味を持たれたこともあるそうだが、安易に“紅華錦”にそれらを交配するようなことは絶対にされない。「そういった離れた血を入れてしまうと、“紅華錦”に戻すことはできなくなる」と、透明鱗三色の走りである“紅桜”を元にひたすら純血のままに累代され、商標登録されているため使うことのできない“紅桜”から“紅”の一文字をとり、“紅華錦”と名付けられた。
その思い入れの強さはこの年月が物語っているのであった。

透明鱗性のため、非透明鱗三色とは地肌の色合いが比べると白さがないのではあるが、それを差し引いてもしっかりとした墨と朱色が入ることで、三色の表現を見事に表している。


二年振りの訪問であったが、今回も見惚れるメダカたちが出迎えてくれたものであった。

「メダカの飼育容器は発泡が一番」とされる鈴木さん、ハウス内にはいくつもの発泡が並んでいる。

目を惹かれる親メダカたちの美しさもあるのだが、驚くべきはこのホテイソウの浮いた発泡容器の中身である。鈴木さんは、メダカの産卵床にはホテイソウが一番と愛用されている。20匹ほどが入る種親槽にホテイソウを浮かべ、採卵される。

中を覗くと、とんでもない数の針仔が泳いでいた。
「ひとつに800匹くらいいるよ」とおっしゃっておられたが、針仔たちは水面から水底にまでびっしりといる。優に1000匹はいるだろうという光景であった。

別の容器には気持ち育った稚魚たちが、これまた水面を埋め尽くしていた。

こちらは少し育った幼魚たち。これでも数百匹が入っている。

1000匹がフ化してきても、鈴木さんの飼育はスパルタ式だそうで、ここから弱肉強食の世界になる。多数の中から弱い個体は自然と淘汰され、強い個体が残っていくというのを自然任せにされている。弱い個体は残らなくてよいというスタイルである。
「年間3万匹くらいになる」という驚きの総数であるが、実際にフ化している数はそんなものではないだろう。それでもそこから生き残った強いメダカたちから残す個体を選別され、この品質を保たれている。商売ではない、あくまで趣味家としての強いこだわりが成せる仕事であった。

一通りを見せていただいた後は、ランチをごちそうになりながらメダカ以外の話も楽しく盛り上がっていた。メダカ以前にはタナゴの繁殖も数多くの種類を経験されており、そうした中からのお話も興味深いもので楽しい時間であった。
さらに「持って帰ってもらうものがあるから」とホテイソウの入った袋をいただいた。
もちろん、ただのホテイソウではない。

根っこの中には卵がびっしりである。
3万匹から選抜された個体たちを見せていただいた後では、自分が育ててもこの姿を得ることは至難の業であることは容易に想像できるのではあるが、せめて秋には「こんな姿になりました」とお見せしたいものである。

「非透明鱗の方が人気だから」と何度もおっしゃっていたが、透明鱗三色の美しさはまた別物であると感じた。新品種や人気の高い品種につい惹かれてしまうが、むやみに手を出して品種数を増やして手に負えなくなったりすることを反省しなければとも思う。ひとつの品種にこだわることの大切さと大変さを改めて感じさせてもらった日であった。