日本らんちう協会 第63回全国品評大会を見学して…

2018年11月3日、愛知県名古屋市にある鶴舞公園にて、日本らんちう協会 第63回全国品評大会が開催された。

ここ、名古屋での大会は、自分が初めて日本らんちう協会の全国大会を見学した場所であり、第45回全国品評大会のこと、今年で18年間、日らんでの撮影をしてきたことになった。

この時には、まだ『金魚伝承』という金魚の本は刊行しておらず、当時、刊行していた観賞魚の隔月刊誌『アクアウエーブ』にて優等魚を掲載したことが忘れられない。

その後、大阪MBS放送ミリカプールを会場にした、第50回全国大会を盛大に迎え、その翌年に『日本らんちう協会五十年史』を制作させて頂き、一つの節目を迎えたことも感じていた。

印刷が仕上がって来た時に、刊行の機会を与えてくださった、故光田 実西部本部長とその本を見ながら言われた言葉は、今でも忘れられない。「これからの日らんは、どんどん変貌していくやろうなぁ…」と言われた光田氏、この“変貌”という言葉の意味は、良いものと悪いものが両方含まれている。「変貌を遂げる」と言うと、イメージは良いだろう。しかし、「畑が住宅地にすっかり変貌する」というと、良いのか悪いのか、人によって受け取る意味合いは変わってくるだろう。

今年の第63回全国大会での熱気も例年通りのもので、らんちゅうという金魚の注目度は相変わらず高いことは間違いないと感じた。

ただ、「自分自身の気持ちは?」と言うと、今年、そして昨年のらんちゅう界はなんとなく大きな盛り上がりなく過ぎていたように感じた。「人気が落ちた」という訳ではない。

ただ、らんちゅうという金魚が昭和、平成の時代に愛好されてきたものが、平成の元号が終わりに近づくと同時に、らんちゅう愛好会の会員の平均年齢も積み重なり、らんちゅう愛好会の変化が遅れ気味だという弊害が出てきていたのかもしれないと思っている。

実は今の時代、「生き物を飼育する」という気持ちが年々、軽薄になってきているのである。それは観賞魚だけではなく、犬や猫も飼育される頭数が減少してきている部分にも表れている。日本人のライフスタイル、住宅環境などが変化してくると同時に、「生き物の飼育は面倒だ」、「生き物がいると家を空けられない」といった風潮が徐々に広がっているのかもしれない。

その中、「生物を飼育する」ことに関して、近年、最も大きな広がりを見せているのが、改良メダカの飼育である。「飼育容器さえあれば、手軽に飼育できる」、「手軽に繁殖が楽しめる」といった部分で男性だけでなく、改良メダカを飼育、繁殖させる女性も3割ほど存在しているのである。

今年は、記録的な猛暑の後、台風の襲来、北海道での地震など、環境的、気分的に、より「生き物を飼育する」部分を削がれた年だったようにも思う。

ただ、この「気分的に…」の部分は、何がきっかけで気持ちが高まってくるかわからないもので、時間がかかるものではなかったりする。

この第63回全国大会を見学しただけでも、気分が変わることもある。

日本らんちう協会 第63回全国大会 親魚の部 東大関 稲村俊明氏出陳魚 東京

日本らんちう協会 第63回全国大会 親魚の部 西大関 大久保義彰氏出陳魚 千葉

日本らんちう協会 第63回全国大会 親魚の部 立行司 野口 弘氏出陳魚 愛知

日本らんちう協会 第63回全国大会 親魚の部 取締一 稲村俊明氏出陳魚 東京

日本らんちう協会 第63回全国大会 親魚の部 取締二 野田善洋氏出陳魚 東京

親魚の部は、三歳以上のらんちゅうが出陳される部門で、完成したらんちゅうの姿を楽しむことができる。生まれてから丸二年半以上飼育して完成する姿で、その二年半を無事にしっかりと育てることが不可欠で、それは簡単なことではない。だからこそ、品評大会で最大の賛辞を送られる部門なのである。

日本らんちう協会 第63回全国大会 二歳魚の部 東大関 竹内誠司氏出陳魚 愛媛

日本らんちう協会 第63回全国大会 二歳魚の部 西大関 青木浩一氏出陳魚 東京

日本らんちう協会 第63回全国大会 二歳魚の部 立行司 田村 智氏出陳魚 神奈川

日本らんちう協会 第63回全国大会 二歳魚の部 取締一 安藤 寛氏出陳魚 静岡

日本らんちう協会 第63回全国大会 二歳魚の部 取締二 村上暢彦氏出陳魚 岡山

昨年生まれの当歳魚をさらに一年間飼育した魚を二歳魚と呼ぶ。
今回の東大関となった竹内誠司氏の魚は、第62回全国大会で当歳魚の部で東大関となった魚で、同一個体で二年連続の日本一となった。

これが2017年11月3日の姿である。

全国大会で、同一個体で当歳魚、二歳魚で東大関となった魚は、現在、2個体は確認しており、詳細を調べるとさらに2個体が加わるかもしれないが、その魚が三年目に東大関となったことはない。

日本らんちう協会の表彰規定で、同一魚が三回の大関を獲得すると横綱に認定されるのだが、竹内氏の魚が第6代目の横綱になるか?それは来年以降のこととなる。

日本らんちう協会 第63回全国大会 当歳魚の部 東大関 東 秀明氏出陳魚 福岡

日本らんちう協会 第63回全国大会 当歳魚の部 西大関 野田善洋氏出陳魚 佐賀

日本らんちう協会 第63回全国大会 当歳魚の部 立行司 目黒康弘氏出陳魚 東京

日本らんちう協会 第63回全国大会 当歳魚の部 取締一 坂上春行氏出陳魚 新潟

日本らんちう協会 第63回全国大会 当歳魚の部 取締二 御手洗逸夫氏出陳魚 静岡

今年の春に生まれた6〜8ヶ月経った個体を当歳魚と呼ぶ。
品評大会の花形と言われ、今回も380個体以上が出陳された。全国大会で入賞できる魚数は76個体、今年も300個体以上が入賞を果たせず、洗面器に乗ることなく、持ち帰られたのである。

他の各地の愛好会の品評大会へ出品されていればほとんどの魚が上位入賞できる魚なのだが、やはりらんちゅうを飼育する人にとって「日本一」の称号がある限り、日本らんちう協会の全国大会は何より、目指したい場所になる。

ただ、やはり全国各地の愛好会の上位入賞魚が集うのも全国大会の魅力なのだが、近年は病気の心配もあり、全国大会用の魚、特に当歳魚は各飼育者が11月3日まで温存するようになってしまっている。

その部分に関してはすぐに改善する方法が見つからないのも実情である。それは全国の愛好会、全国のらんちゅう愛好家と共に見つけていくものなのだろう。

全国大会が終わり、横浜観魚会の良魚交換会に出かけた。今年は自分のらんちゅうへの集中力が少し減退していたのだが、この交換会の雰囲気が私の気分を大きく変えてくれた。

これまで見かけたことのない方々が来場され、熱心にらんちゅうを見ておられたからである。

故光田会長の言われた「これからの日らんは、どんどん変貌していく…」その言葉を良い方向に持っていくのは、やはりこれから新たにらんちゅうという品評会への出品を目的とする金魚を飼い始める方々にその面白さ、楽しさを伝えていくことも貢献する部分はあるだろうという気持ちになれた。

今年は特にらんちゅう愛好家の取材に出向くことが極端に少なくなった。それだけらんちゅうという金魚を大会に入賞するレベルまで飼育することが難しくなっているということでもあるのだが、また、新たに取材をさせて頂く愛好家も育ってくることだろう。上位入賞をされなくても、その愛好家が気持ちを込めて育てた魚から感じられるものがあれば、気軽に声をかけさせて頂くつもりである。ただ、結果だけを求めて育てられた魚からは、他の人に感動を与えることも出来ないし、申し訳ないが、声をかけさせていただくことはない。これまでそうして、『金魚伝承』は作ってきたのである。

らんちゅうの品評大会は結果が冷たく出るものでもある。しかし、品評大会に入賞することだけが楽しさ、面白さではない。毎年、個々がどのポイントでも「パーソナルベスト」を出していくことに面白さがあるし、同じ趣味を持つ愛好者同士で話せる時間が楽しいのである。

全国大会が終われば、来年のらんちゅう飼育が開始になる。寒い中、加温して当歳魚を育てること、餌を切って、来年の産卵に備えること、いずれも来年を視野に入れた飼育になる。

まだ表紙は未完成なのだが、現在、制作している『金魚伝承第35号』は、日本らんちう協会の第51回全国大会から今回の第63回全国大会までの役魚を一冊にまとめることにした。

この本を参考にされ、また新たな日本らんちう協会およびそこに属する愛好会が発展していくことを楽しみにしていたい。

なお、金魚伝承第35号』は特別版のため、売り切れも予想される。入手を希望される方は事前に予約していただくことをお薦めしたい。

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