『夢中めだか』訪問

この春に訪れた『夢中めだか』。もうお約束のようではあるが、この日もあいにくの雨模様であった。線路沿いの開けた場所に、数百のトロ舟や木枠の池が広がるのだが、雨が降ると足下は水たまりだらけになる。その上に板を渡し、綱渡りのように歩くのだが、水たまりが大きければ乗った途端に沈んでいく。常連さんたちは長靴持参で来られるそうである。

　訪れる度に光景が変わり、プラ舟が木枠のたたき池に変わったり、加温用のハウスが増えたりと、その規模は増加し続けている。この時はまだ冬季休業中で、お店はお休みなのであるが、雨の中、次々とお客さんが訪れていた。それというのも、折しも垂水政治氏の作出した“マリアージュキッシングワイドフィン・エメラルドフィンタイプ”がリリースされたタイミングであったのである。

　発送されるよりも直接受け取りたいというお客さんが嬉しそうにパッキングされた箱を抱えていた。垂水さんから預けられたメダカたちは加温設備でしっかりと管理されており、しっかりと仕上げられた姿でお客さんに渡される。ちょっとでも細くなったりしないようにと気をかけるのが『夢中めだか』である。

　そうしているうちにも次々とお客さんがやってくる。とても休業中のお店には見えない賑わいであった。メダカの管理があるために人がいるので、お客さんは入ってくるのだが、そうなったら追い返すことはできないと熱心に接客をする面々であった。これがシーズンインすると、土日などは200人近くが訪れるようになる。そうなるとお客さんの行列ができてしまう嬉しい悲鳴が出る状況になるそうである。

加温ハウスの中は、汗が噴き出す暑さで、これでもかというくらいに容器が詰め込まれている。ハウス内全体を温めてはいるが、さらに大型容器にヒーターを設置し、その中にペアや繁殖グループの入った小型容器を並べているなどフル回転である。様々なペアがセットされ、異品種交配なども盛んに行われている。どんなメダカがここから生み出されていくのか宝箱的な環境なのだが、困ったことに本当に？なこともある。「これはなに？」と尋ねても、不明なことがある。スタッフそれぞれが管理している場所があるのだが、移動を繰り返したりするうちに札などが消えてしまうこともあり、正体不明になることがあるのである。「なんでしょう？？」と笑われるおおらかさも『夢中めだか』らしいとも言えるのだが、せっかく魅力的な姿に作るのだから、そこはちゃんと記録しようとお願いしたものであった。

　もちろん、しっかりとした魚作りも進められている。こちらはハウスネーム“タキシード”

　海外にも通じるようにと付けた名前である。（龍の瞳光体形×オロチスワロー）にさらにオロチスワローを交配されている。漆黒の体に光体形の黄ビレがバタフライ表現になる見応えある姿であるが、光体形のために体形作りに苦労されており、まだ満足いく数は1割ほどだそうで、さらなる品質向上を続けている。

“夜桜×ウコンカブキ”の累代からの個体

　水色がかった体外光表現にこだわって累代を進めている系統。明るい色調で涼しげな姿にされていた。2019年にこの交配系統で黄色みのある姿を見せていただいていたが、さらに洗練された姿に進められていた。

“夜黒”のハウスネームがつけられた“夜桜×黒ラメ黄幹之体外光”の交配系統

　緑色の体色を目指して進められている交配系統で、それをリアルロングフィン化させていた。ヒレの光沢も美しく、水槽映えする姿であった。

“鯖”から累代を進めている系統

　滲むような体内の黒と体外光のコラボを意識されているそうだ。まだ“鯖の極み”に近い表現だが、体側の黒さよりも内側の黒をよりはっきりさせたいと考えられている。また、寸の詰まったような体形になりやすい系統なので、そこをシャープなものにまとめたいと意識されていた。

「メダカ好きな人を増やしたい」というのが『夢中めだか』の方針である。メダカの場合、ある程度累代を進めていても、なかなか形質が固まらなかったりと、思うようにいかないこともある。しかし、「そう簡単にできちゃったら、それもつまらないから」とされ、「自分らがメダカの掛け合わせに楽しさと面白さを感じるから」と、その無限の可能性を多くの人に楽しんでもらいたいとされていた。